中国紀行?奇行?
これは、私が大学2年の頃、友人のH氏になかば強引に誘われ、断れきれぬまま始めての 海外旅行である中国へ旅した時の珍道中である。 中国へ来て2日目の朝。前日に、現地の人々にまぎれ、強引に割り込んでくるダフ屋との
一時間に及ぶ攻防の末、苦労して手に入れた杭州行きのチケットを持って、 私は仲間2人と上海駅に着いた。 ようやく、上海の街の独特の匂いと人の多さに慣れてきた私は、 美しい湖で有名な杭州の風景を頭に描きながら、ごった返す駅の改札へと向かった。 改札に着いて驚いた。X線と思われる箱型の検査装置がそれぞれの改札の横に設置してあり、 改札を通る人は皆、それへ続くベルトコンベア―に荷物を置かなければならないのだ。 それはまるで空港を思わせた。一応治安のよろしい日本では決して見られない光景。 ひとつひとつがカルチャーショックだ。 あぁ、自分は外国へ来たんだなという実感をかみしめつつ、私も同じようにベルトコンベア―に、 それとみて旅行者と分かる、大き目のかばんを置いた。 見ると、仲間2人はすでに装置を通過し、改札の内側でなにやら談笑しながら私を待っている。 ずいぶん時間のかかる機械だと少し苛立ちを憶えたときだった。改札の中が騒然となった。 駅員か警察か、制服を着たおばさんが険しい表情でこちらの改札へ向かってくる。 何かあったのだろうか。 制服のおばさんは、私のならんでいる改札の前で仁王立ちになり、X線の装置指しながら、 並んでいる私達に向かって、怒鳴り始めた。「麻薬(大麻)・・・?」私はとっさにそう思った。 ただ立ちすくむ私達にいらだち、おばさんの怒りはおさまらない。 装置を通過中の荷物がやはり問題のようだ。 どうやら、今、通過中の荷物は私のすぐ前の女の子のものと私の荷物だけらしい。 まさか自分の物がひっかかったはずもなく、「こんな小さな女の子が、かわいそうに・・・」と 感傷にふけっていると、女の子が私を怪訝な顔で見上げた。「えっ!?」 気づくと、制服のおばさんは私を指差し、こっちへ来いと激しく手招きしている。 「何で!?・・・俺?」 おばさんは大きくうなずいた。「まさか・・・?」 何もまずいものは入れていない。必死のゼスチャーで応えるが、 どうやら分かってくれないようだ。それどころか、おばさんの怒りは頂点に達しようとしている。 知らぬ間に麻薬でも入れられたのだろうか?余計な想像が頭をよぎる。 「国外追放?治外法権?」頭はもうパニック。 しかし、怪しまれてはいけないと、出来るだけ平静をよそおいながら、 しかたなく私はおばさんに従い、駅員室らしい部屋へと引っ張って行かれた。 中では、厳しい顔をした制服の男がモニターを指差し、待ってましたとばかり、 私に向かって何かまくし立てた。 とんでもないことに巻き込まれたのか。泣きそうになりながら見たモニターには、 長方形で先にもう一つ小さい長方形がついた物体が映っていた。 一瞬何かわからなかったが、気づいた。 「ビンだ。それもただのミネラルウォーターのビン・・・」 なんでこれがいけないのか。ビンは中国では危険物なのか? 制服のおばさんが言うことがようやくわかってきた。 どうやら火炎瓶かなにかと勘違いしているらしい。 なんとかビンだと説明すると、おばさんと制服の男は連れ立って、 私のかばんの方へ向かい、いきなりかばんの中身をひっくり返し始めた。 びんが取り出された。慎重にふたを開けると内容物の匂いをかぎ、 ふたりは納得の行かない顔で互いを見ると、ふたを閉めた。 「大の大人がびんごときに何やっとんねん!」と悲しい気持ちになってきた。 制服のおばさんは、乱暴にびんと引っ掻き回した荷物をかばんに押し込めると、 それを私に押し付け、さっさと行けといわんばかりに手で私を追い払った。 「なんで!?謝罪は無し?周りから白い目で見られ、辱めを受けたあげく、この対応は何・・・?」 私は中国を嫌いになりかけた。 カルチャーショックは綺麗事ばかりじゃないんだと自分にいい聞かせ、 ようやく、一時はくぐることが出来ないと思われた改札を抜け、ようやく仲間のもとへ歩み寄った。 うなだれる私に仲間2人は「いいショーを見せてもらった。」と一つも心配するそぶりもなく、 愉快そうに笑った。「強くならなければ・・・」私は固く決意した。 終わり by 恥
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